最低自給の上昇が経営を圧迫。ファクタリングしながら今を耐える。

秋田県 電子部品・デバイス製造業 創業33年

電子部品の組付けという仕事は、見た目以上に神経を使います。細かな部品を一つずつ手に取り、ハンダを流し込んでいく作業は、熟練の目と手の感覚がものをいいます。気温や湿度によってハンダの流れ方も変わるため、毎回同じように見えても、常に微調整をしながら組み付けていかなければなりません。量産の現場ではありますが、職人仕事のような一面もあります。ただ、その技術が正当に評価されるかといえば、必ずしもそうではありません。取引先は量を重視し、品質に対する評価は言葉でこそ褒められても、単価に反映されることはほとんどありません。何度も値上げ交渉を試みましたが、「競合もいるので」とあっさり断られてしまいます。こちらにできることは、ひたすら精度と納期を守ることだけです。
一方で、最低賃金は着実に上昇しています。地域差こそあるものの、以前と比べるとパートさんたちの時給は確実に上がっています。もちろん、彼女たちがいなければ現場は回りません。熟練の手作業に支えられてこその現場ですし、ひとつひとつの部品を丁寧に仕上げてくれるからこそ、クレームもなく納品できています。それでも、時給が上がれば人件費が直撃します。パート代の支払いだけで月の売上が半分以上消えることも珍しくありません。事務所の電気も、はんだごての電気も、なにもかもがコストになってのしかかります。以前は少し余裕があった月末の残りも、今ではギリギリか、足りない月もあります。売掛が立っていても、入金は月末や翌月末。急ぎで支払う必要がある人件費や資材費をどうするか。
その場をしのぐ手段として、ファクタリングに頼るようになりました。毎月ではありませんが、定期的に利用しています。特に注文が重なった月や、資材の一括購入が必要な時などは、現金を先に確保しなければ仕事そのものが止まってしまうからです。もちろん手数料は安くはありません。それでも、止めるわけにはいかない以上、現場を優先して考えると、どうしても頼らざるを得ません。

利益を確保するには、生産性を高めるしかないのかもしれません。しかし、機械化できる工程はすでに他の外注先に移っており、うちに来るのは手作業でしか対応できない案件ばかりです。要するに、他所では断られたような仕事が回ってくる。それを、地道に、手際よく、仕上げていくしかありません。
それでもこの仕事を続けているのは、ひとつには現場に誇りがあるからです。手を抜かず、丁寧に仕上げた部品が、最終的に誰かの使う製品の一部になっていく。普段は見えない部分ですが、確かに社会の一部を支えている実感があります。効率だけではなく、確かな品質が求められる仕事。そうした信頼が少しずつでも広がれば、また新たな取引が生まれるのではと思っています。

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