虚偽債権を提示しファクタリング会社を欺いた事例【東京地方裁判所 平成30年(ワ)39127号、令和元年(ワ)26420号 令和2年3月25日判決】
ファクタリングを利用する際、虚偽の請求書や支払い確約書を用いて、ファクタリング会社から資金を騙し取る企業が後を絶ちません。当然ながら、詐欺は違法行為であり、騙し取った資金は返還しなければなりませんし、刑事事件に発展する可能性もあります。
本件は、虚偽の債権を提示してファクタリング会社を欺いた企業とその取引先が訴えられた裁判事例です。
1.事案の概要
<当事者>
原告:ファクタリング会社
被告1:ファクタリングを利用した企業
被告2:その企業の代表者
被告3:企業の取引先
被告4:取引先の代表者
被告2は資金繰りに窮したため、虚偽の支払予定通知書や支払い確約書を作成し、原告に提示してファクタリング契約を申し込みました。
これらの書類には被告3(取引先)の実印が押印されていたため、原告は信用し、契約を締結。被告1に対し2,480万円を振り込みました。
しかし、実際には債権が存在せず、原告は債権回収ができない事態に。そこで原告は「被告らが共謀して虚偽の書類を作成し、資金を騙し取った」として訴訟を提起しました。
被告1、2は事実を認めましたが、被告3、4は関与を否定し、「自社には責任はない」と主張。また、被告3、4は「根拠のない訴訟を起こされ、弁護士費用や精神的苦痛を被った」として原告に反訴しました。
2.原告の主張
原告は以下の点を主張しました。
① 被告らは共謀して2,480万円を騙し取った
被告1、2は虚偽の書類を提示し、資金を騙し取ったことを認めており、詐欺行為が明白。
また、被告3、4もこの行為に関与していたと原告は主張。
被告1(企業)と被告3(取引先)は長年の取引関係があった
被告4(取引先代表)は被告2に金銭を貸していた
被告2が「実印を貸せば20~30万円程度の利益が得られる」と持ち掛け、被告4はそれを信じて実印を貸した
これらの点から、被告3、4も詐欺行為を認識していたとして、共同不法行為の責任を負うべきと訴えました。
3.被告1、2の主張
被告1、2は虚偽の書類を作成し、資金を受け取ったことを認めた上で、以下の点を主張しました。
① ファクタリング契約は無効
本件のファクタリング契約には「取引先が支払えない場合、原告(ファクタリング会社)が契約を解除できる」という条項がありました。
しかし、債権譲渡契約ではなく、事実上の融資契約とみなされるべき内容であるため、公序良俗違反により無効であると主張しました。
② 不法原因給付が適用される
仮に契約が無効であれば、ファクタリング会社は資金返還を請求できません。不法な契約に基づく支払い(不法原因給付)であるため、返還義務はないと主張しました。
4.被告3、4(取引先)の主張
被告3、4(取引先)は、不法原因給付の主張を援用しつつ、共同不法行為の責任を否定しました。
① 書類を作成していない
被告3(取引先)は支払予定通知書や支払い確約書を作成しておらず、被告2が勝手に実印を使って作成したものであると主張しました。
② 騙し取る意図はなかった
被告4は被告2に実印を貸したものの、「20~30万円程度の利益」と聞かされていたため、数千万円の詐取に利用されるとは予想できなかったと述べました。
③ 反訴(原告への損害賠償請求)
被告3、4は、原告が不当な訴訟を起こしたことで弁護士費用や精神的損害を被ったとして、以下の金額を請求しました。
被告3(取引先企業):239万9,320円
被告4(取引先代表):294万9,320円
5.裁判所の判断
裁判所は以下の判断を下しました。
① 被告1、2には2,480万円の支払い義務がある
被告1、2が虚偽の書類を作成し、資金を騙し取ったことは明らか
契約の無効性を主張しても、本件では適用されない
不法原因給付も認められず、被告1、2に2,480万円の返還を命じた
② 被告3、4(取引先)には支払い義務なし
取引先(被告3、4)の関与は限定的であり、共同不法行為には該当しない
被告4は確かに実印を貸していたが、数千万円の詐取に利用されるとは予想できなかった
以上の理由により、原告の被告3、4に対する請求は棄却されました。
③ 被告3、4の反訴も棄却
被告4は「20~30万円程度の利益を得させる目的で実印を貸した」事実があるため、原告が訴訟を提起すること自体が不当とは言えない
よって、被告3、4の反訴請求も棄却された
6.裁判結果のまとめ
被告1、2(利用企業と代表者) → 2,480万円の支払い命令
被告3、4(取引先と代表者) → 支払い義務なし
被告3、4の原告への反訴 → 棄却
この判決からも分かるように、虚偽の債権を提示してファクタリング契約を結ぶ行為は厳しく追及されます。利用企業だけでなく、取引先の関与が認められれば共同不法行為に問われる可能性があるため、注意が必要です。