食品加工業 栃木県 創業33年
私は小さな練り製品工場を経営しています。蒲鉾や竹輪を中心に作り、近隣の量販店へ卸していますが、昨年から魚肉すり身の価格がじわじわと上がり続け、今年に入ってからは想像もしなかった水準に達しました。円安と燃料費高騰が重なり、仕入れ担当と毎週のように改善策を探していますが、すぐに打てる手は限られています。
売上自体は冬場の鍋需要で伸びました。それでも粗利は薄く、人件費や光熱費を差し引くと現金はほとんど残りません。社会保険料の納付猶予を申請しながらも、結局は延滞という形になり、封筒が山のように届くたびに胸がざわつきます。それでも従業員の給与だけは遅らせたくありませんでした。
そこで三カ月前から定期的なファクタリングを始めました。月末に売掛金の三割ほどを譲渡し、資金化した現金で原料代と光熱費を優先的に支払う仕組みです。手数料は決して安くありませんが、支払期限を守り信用を維持するための保険だと思えば納得できます。営業担当の方は次の出荷予定を細かく確認し、丁寧にリスクを説明してくれます。最初は数字ばかり追われる感覚が強くありましたが、慣れてみると資金繰りの見通しが立ち、深夜に一人で電卓を叩く時間が減りました。
ファクタリング会社からは「手数料を下げるには、出荷ロットを安定させることが近道です」と助言を受けました。そこで製造ラインを再編し、午前と午後で同じSKUを続けて生産する方式に切り替えています。作業員は単純作業が増えた分だけ退屈そうですが、歩留まりは確実に向上し、廃棄ロスも一日あたり二割減りました。この数字を提示したところ、来月からわずかですが手数料が引き下がる予定です。努力が形になる瞬間があると、暗い倉庫にも小さな光が差し込みます。
四月から社会保障制度が改正され、従業員負担と事業主負担の双方が増えました。新しい計算方式にも慣れず、給与計算ソフトの更新費用まで重なり、帳簿は赤一色です。それでも今は我慢の時だと自分に言い聞かせています。食卓には必ず一品は練り物が必要という声がある限り、需要がゼロになることはありません。実際、先月は業務スーパー向けに低価格帯の新商品を投入し、追加の引き合いも見え始めました。
ただ、延滞している社会保険料は待ってはくれません。分納計画を立てるために税理士と何度も打ち合わせを重ね、次のボーナス時期までに半分だけでも返済する目標を設定しました。ファクタリングを利用する回数を増やせば資金は回りますが、その分だけ手数料も膨らみます。毎月の資金繰り表に手数料の列を赤字で記し、少しずつ減らす方法を模索しています。
夕方、工場のラインをすべて洗浄し終えた後、作業着のまま冷蔵庫室で原料ブロックを数えました。氷結した白い塊は、今日も確かに未来の売上につながると感じます。冷気の中で深呼吸をすると、頭が冴え、「来シーズンも必ず乗り切れます」と自然に声が漏れました。出口の見えないトンネルでも、毎月のファクタリング報告書が道しるべになります。
先週、営業担当と近くの食堂で夕食を取りました。焼き魚定食を頬張りながら、私は次の契約更新で限度額を拡大できるか相談しました。担当者は味噌汁の湯気越しに慎重な表情を見せつつ、在庫回転率をもう一段改善できれば前向きに検討できると答えました。温かな味噌と共に、背中を押されるような励ましを感じました。
夜、次の仕込みの計画を頭の中で整理します。高い原料をどう活用し、手数料を吸収しながらも付加価値を上げるか。その答えはまだ霞んでいますが、立ち止まる余裕はありません。今は我慢の時です。しかし我慢の奥には、必ず次の成長点が待っていると信じています。
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