愛知県 建設業 創業17年
足場の組立てを専門に請け負うようになって十年近くになります。現場が切れ目なく続いていた頃は、毎月の支払いサイトが長めでも特に気にせずに過ごしていました。材料費や人件費を立て替えても、次の現場が決まればすぐに回収できると考えていたからです。ところが昨年の夏、急な原価高騰で見積もりを修正しているうちに受注がぽつりと止まり、資金繰りが一気に苦しくなりました。それでも私は「次の現場までのつなぎ」と楽観視し、貯まっていた現金を遊興費や車のローンの繰上げ返済に回してしまいました。
資金が底を突いたのは盆明けです。外注先への支払い日まで一週間を切り、銀行に駆け込みましたが、決算書に映る放漫な支出が響いて追加融資は難しいと言われました。途方に暮れていたとき、同業の先輩からファクタリングという方法を教わりました。売掛債権を譲渡して資金を受け取る仕組みだと聞き、工事代金の請求書を持ち込みました。初回は二社間契約で、手数料は一五%。高いとは感じましたが、職人を待たせるよりはましだと腹を決めました。
一度資金が回り始めると、ファクタリングは連鎖的に続きます。次の現場の請求書も譲渡し、資材置き場の拡張や工具の買い替えに充てました。手数料込みのコストを見落としていたわけではありません。それでも、現場が動き出せば自然に埋まるだろうという甘い見通しがありました。結果として、毎月の譲渡額は増え、資金は入ってくるのに手元に残る現金は減るという逆転現象が起きました。ファクタリング自体は合法的で便利な仕組みですが、使い手の計画性が試されると痛感しました。
転機は冬の閑散期です。受注が減るのは毎年のことなので、手数料分を差し引いた純粋な手残りを計算し、月次損益を棚卸しました。すると、売掛債権の早期資金化よりも固定費の見直しを優先すべきことがはっきりしました。倉庫を一つ解約し、リース工具を買い取りに切り替え、人員配置を職長中心の少数精鋭に変更しました。
現在は、請求書一枚あたりの譲渡額を徐々に減らし、支払いサイトの短縮交渉も進めています。ファクタリングを完全に手放すにはもう少し時間がかかりますが、当初のような流動性への過度な依存は解消しつつあります。今でも資材置き場の隅に並ぶ未払い伝票を見ると、あの盆明けの焦燥感がよみがえります。だからこそ、次の現場の契約書を結ぶたびに、手数料分のコストとキャッシュフローを最初に確認する癖がつきました。
ファクタリングは、必要なときに呼び出せる非常階段のような存在です。緊急時に頼れる階段がある安心感は大切ですが、そこへ何度も駆け下りると地面が遠ざかるだけだと学びました。譲渡額が少しずつ下がる今、階段を上り直す手応えを感じながら、来季こそ地に足を着けた経営に戻る決意を固めています。