2社間ファクタリングを各債権で行った場合の、譲受人の対応方法

2社間ファクタリングは、債権者(売掛先)への通知を行わずに、債権譲渡が実行される形態です。売掛先に知られずに資金調達ができるというメリットがある一方で、譲受人であるファクタリング業者は、債権の回収リスクを正確に把握し、個別に対応していく必要があります。特に、複数の売掛債権を個別にファクタリングする場合には、それぞれの債権の内容や性質に応じた対応が不可欠です。

本稿では、2社間ファクタリングにおいて債権を個別に取り扱う際の、譲受人側の基本的な対応方法や注意点について、実務と法的側面の両面から整理していきます。


■ 各債権を対象とする際のリスク管理の基本

2社間ファクタリングでは、債権譲渡の事実が第三債務者に通知されないため、回収時点まで譲渡が「対抗要件を備えない」状態となるケースが大半です。民法上、債権譲渡は「債務者への通知または債務者の承諾(確定日付付き)」によって第三者対抗要件を取得しますが、これが欠けていると、売掛先の債権差押や二重譲渡のリスクが残ります。

このリスクを踏まえ、譲受人としては以下の対応が重要です。

  • 各債権についての「取引先リスク評価」を個別に実施する
  • 売掛先との過去の支払履歴や信用情報を把握する
  • 売掛先からの入金が確定するまで資金回収不能リスクを織り込む

売掛先によって支払いサイクルや会計処理の方針が異なるため、債権を一括で見るのではなく、個別の契約・請求書に基づき丁寧に評価することが求められます。


■ 譲渡債権の対象範囲を明確にする

各債権をファクタリング対象とする場合、譲渡契約書において対象債権を明確に特定することが必要です。ここが曖昧であると、後に債務者と債権者間で支払い内容に食い違いが生じた際、回収不能のリスクが高まります。

たとえば、以下のような記載を推奨します。

  • 債権の発生日、請求日、債権額を明記
  • 対象となる契約名・業務内容を記載(例:令和6年3月31日施工「○○ビル外壁塗装工事」)
  • 請求書番号と一致する内容を記録

譲受人は、契約時点でこれらを細かく記録し、売掛先からの入金情報と突合できる体制を整えておく必要があります。


■ 複数債権の管理体制の構築

ファクタリング対象が複数の債権にわたる場合、それぞれの債権の期日・金額・入金状況の進捗をリアルタイムで把握することが重要です。特に、売掛先がまとめて入金してくる場合や、支払いの一部が減額されている場合には、どの債権分に相当する入金かを正確に照合する必要があります。

このため、譲受人としては以下の体制整備が不可欠です。

  • 各債権に対し一意の管理番号を付与する
  • 入金の都度、消込作業を徹底する(部分入金・誤入金も想定)
  • 売掛先からの入金通知の形式(振込名義、備考など)を事前に確認する

さらに、誤入金や債権者との口座混在を防ぐために、売掛先への請求書には、譲受人名義または専用回収口座を使用することも検討されます。


■ 売掛先への通知に関する戦略的判断

原則として、2社間ファクタリングでは通知を行わないことが前提ですが、債務不履行が発生した場合や売掛先に法的トラブルが発生した場合には、速やかな通知が必要になることがあります。譲受人は、通知を行うタイミングとその方法について事前にポリシーを決めておくことが重要です。

通知の方法には以下が考えられます。

  • 内容証明郵便による通知
  • 債務者の承諾書の取得(確定日付付き)
  • 公正証書での記録化

この対応により、譲受人としての法的立場を確保し、万が一の回収不能に備えることが可能となります。


■ 売掛先の異議・相殺対応

譲渡された債権について、売掛先が「工事が完了していない」「瑕疵がある」などと主張し、相殺や支払い拒否を行うケースも想定されます。譲受人はこのリスクを減らすため、以下の対応を徹底することが望まれます。

  • 完了報告書や検収書など、債権成立を証明する書類を事前に取得
  • 過去の相殺履歴や値引き条件を確認し、売掛先との齟齬がないよう契約書に反映
  • 債権成立条件(引渡、検収、検査など)を明記した上で、譲渡日を設定

実務では、売掛先が「未払部分は値引き交渉中」と主張し、入金を先延ばしにするケースも見られます。譲受人としては、売主に事前の交渉状況やメール記録の提出を求め、相殺や減額の余地がない債権のみを対象にすることでリスクを回避できます。


■ まとめ

2社間ファクタリングにおいて、複数の債権を個別に譲渡対象とする場合、譲受人の業務は煩雑になります。しかしながら、正確な債権の特定、管理番号の設定、消込処理、通知の判断、相殺リスクの回避などを徹底すれば、債権譲渡としての安全性は大きく向上します。

最も重要なのは、「債権ごとに回収可能性を検証する姿勢」と「法的な正当性を担保する準備」です。
2社間という特性上、売掛先の協力が得られない中でも、譲受人としては確実な権利保全と回収計画を実行できる体制を整えておくことが求められます。

ファクタリングがより広く、かつ安全に活用されるためには、こうした細やかな対応が基盤になります。譲渡債権を「資産」として正しく取り扱う意識が、ファクタリング業界の信頼性向上にもつながっていくといえるでしょう。