2社間ファクタリングは、資金繰りに悩む中小企業にとって、即時性のある資金調達手段として広く利用されています。銀行融資とは異なり、担保や保証人を必要とせず、売掛金を資産として現金化できる点が大きな魅力です。ただし、その性質上、「売掛金が確実に存在すること」が大前提となります。こうした中で問題となるのが、不存在債権――つまり実在しない売掛債権を用いて資金調達を行う不正取引のリスクです。
2社間ファクタリングでは、売掛先に契約の通知がなされないため、売掛金の真偽確認がファクタリング会社側では難しくなります。売掛先に債権譲渡の事実を伝えないことで、取引先との関係を崩さずに資金調達ができるというメリットがある一方で、悪意ある利用者が「実在しない取引」や「既に入金された売掛金」を提示し、虚偽の売掛金を売却するという事例も少なからず発生しています。
こうした不存在債権の売却は、法的には詐欺罪や私文書偽造罪、あるいは背任罪に問われる可能性もある重大な違法行為です。ファクタリング会社が被害に遭った場合、刑事告訴と並行して損害賠償請求がなされるのが一般的ですし、被害額によっては、経営者個人の破産や刑事裁判に発展する例も見られます。
現実には、資金繰りに追われる中で「どうにか今月だけ」といった気持ちから、不正に手を染めてしまうケースが多く見られます。経営者本人に明確な詐欺の意図があったというより、「あとで埋め合わせるつもりだった」「売掛金になる予定だったが、入金が間に合わなかった」といった説明がなされることもあります。しかし、ファクタリングは「すでに確定した売掛金の売却」である以上、「予定の債権」や「発行しただけの請求書」では成立しません。形式的に請求書が存在していても、それに裏付けられる実際の取引がなければ、法的には債権そのものが存在していないと判断されるため、売却自体が無効とされ、詐欺とみなされることになります。
また、最近ではAIやOCRによる請求書や通帳のチェックが進化し、不自然な債権や改ざんデータを用いた不正が発覚しやすくなっています。実際の取引先へのヒアリングや、登記・商業情報との照合など、ファクタリング会社側の審査体制も強化されており、たとえ一時的に資金化に成功したとしても、後に債権の不存在が明るみに出て、全額返還を求められるリスクは極めて高くなっています。
不正の温床になりやすい背景として、ファクタリングの審査が比較的緩やかであるという点も挙げられます。特に2社間取引では、申込から入金までが非常にスピーディーな反面、十分な実態調査が追いつかないまま資金が振り込まれてしまうという実務上の課題もあります。これに対し、ファクタリング会社側では、定期的に売掛先へ確認書を送付したり、利用者へのヒアリングを徹底したりすることで、取引の健全性を確保しようとしています。
もっとも、こうした取組だけでは完全に不正を防ぐことはできません。したがって、根本的な対策として重要なのは、利用企業側の「モラル」と「リスク認識」です。一時的な資金不足であっても、不正な手段に頼ってしまえば、会社の信用どころか、経営者個人の人生にも重大なダメージを与えることになります。
仮に、取引先との取引が確定していて、入金も予定されているが、正式な請求書の発行が間に合っていない、というようなグレーな状況であれば、ファクタリング会社に率直に相談することが大切です。多くの業者は、過去の取引履歴や注文書、契約書などから債権の信憑性を判断する仕組みを持っており、正直に状況を伝えることで対応を検討してくれるケースもあります。問題なのは、虚偽の情報をもとに契約を進めようとする姿勢であり、それさえなければ、柔軟な支援が受けられる可能性は十分にあります。
2社間ファクタリングは、正しく使えば非常に便利な資金調達の手段です。しかし、その利便性ゆえに、倫理的なハードルを下げてしまうこともあり得ます。実態のない債権を現金化することは、自社の信用を売る行為であり、最終的には自らの首を絞めることに繋がります。
中小企業の資金繰りは日々厳しさを増しています。税金、社会保険、仕入代金、従業員の給料と、どれも待ったなしの支払ばかりです。だからこそ、緊急時の資金調達の選択肢としてファクタリングが存在するのは意義深いことです。しかし、ルールと信用を守ったうえでの利用でなければ、そのメリットは一瞬で裏返ります。
最後に、もし現在ファクタリングを利用していて、「この請求書、大丈夫だろうか」「債権として成立しているか不安だ」という気持ちが少しでもある場合は、今すぐ立ち止まることをおすすめします。曖昧なまま契約を進めれば、いずれ法的な責任を問われる可能性が出てきます。自社の未来を守るためにも、正しい手順と誠実な姿勢が、もっとも重要であることを改めて認識すべきでしょう。