福岡県 土木業 創業21年
公共工事の現場では、月末になると通い慣れたファクタリング会社に電話をする手が自然に動きます。三次下請けとして歩道の境界ブロックと点字ブロックを敷設する仕事は安定して見えますが、資金繰りのリズムは常に綱渡りです。ブロックそのものは元請けが支給してくれるものの、カッター刃や振動プレート、軽油は自腹です。
昨年の燃料高騰以降、ユンボ一台を一日動かすだけで八千円近くが煙のように消え、わずかに上がった単価では到底埋まりません。公共事業は検査と支払いがきっちりしている反面、完成から入金まで二、三か月のタイムラグがあります。材料費が掛からないのだから楽だろうと周囲に言われても、手元資金が先に尽きれば工事は止まります。そこで毎月、出来高明細が確定した瞬間に売掛金を買い取ってもらう仕組みを利用します。書類の送信だけで翌営業日に振り込まれるので、職人の給料と機材リース料を遅らせずに済みます。
とはいえ楽になるわけではありません。帳簿上、売上総額は立派でも実際の入金は割引後。翌月以降に残る二割と差額が詰め合わせになって戻り、すぐ次の工事で消えます。手元に残るのは税理士にお願いしたキャッシュフロー表と、ファクタリング利用履歴だけ。金利ではないと説明を受けても、実感としては毎月少しずつ体力を削られる感覚です。
先月、夜間作業の応援を頼んだ若い左官職人が、現場の休憩中に「自分で元請けを取るのが夢です」と話してくれました。彼にとって私は先を行く存在に見えるようですが、内心では資金繰りに追われる毎日ですと打ち明ける勇気がありません。決算書の見栄えを悪くしないよう、来期からは売掛金の半分だけをファクタリングに出し、残りは金融機関の当座貸越でまかなう計画を立てました。手数料は少し減るはずで、返済スケジュールも読めます。
月末、ファクタリング会社から入金完了のメールが届くと、トラックのキーを握る手がわずかに軽くなります。それでも請求書原本が手元を離れる瞬間、売上の未来を切り売りする甘さと怖さが同時に胸に湧きます。次の現場は市内の通学路、点字ブロックは歩行者の安全を守る最後の一枚です。
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