取引先が2社間ファクタリングを利用し、第三債務者となり債権差押通知書が届いた時の対処法

取引先が2社間ファクタリングを利用した結果、ある日突然、裁判所から「債権差押命令」が届くことがあります。
このとき自社は「第三債務者」という立場になり、対応を誤ると深刻なリスクを負う可能性があります。
今回は、このようなケースでの具体的な対処法について、実務的な視点から解説します。

まず、2社間ファクタリングとは、売掛金の債務者(つまり支払う側、ここでは自社)に対して通知を出さずに売掛債権を譲渡するファクタリング契約です。
取引先(売掛先)は売掛債権をファクタリング会社に譲渡して資金化しても、表面上は取引に何の変化もないため、こちらからは気付きにくい構造になっています。

そんな中で突然「債権差押命令」が裁判所から送られてきた場合、自社は、①取引先(売掛先)から債権譲渡を受けたファクタリング会社、または②取引先の別債権者による差押え、のいずれかの当事者として手続きに巻き込まれることになります。
ここで正しい対応をしないと、二重払いのリスクや損害賠償請求の対象になるおそれもあります。

債権差押通知書(正式には差押命令)を受け取ったら、まず冷静に書類を確認しましょう。
特に重要なのは、次のポイントです。

・差押債権者の氏名(または商号)
・差押対象となった債権(例:○月○日締めの売掛金債権)
・支払停止の指示有無
・陳述書提出の指示有無と提出期限

この時点で一番重要なのは、「すぐに取引先へ支払いをしてはいけない」という点です。
差押命令が出された時点で、債権は仮に売掛先に対して支払期日が到来していても、勝手に支払ってしまうと二重払いのリスクが生じます。
裁判所に対して正しく手続きを踏むことが必要です。

次に、通常差押命令と一緒に送られてくる「第三債務者陳述書」を作成し、裁判所に提出する必要があります。
この陳述書では、
・差押対象となった債権が存在するか
・その額はいくらか
・すでに他の差押えがないか
・弁済が済んでいないか
などを事実に基づいて記載します。

ここで虚偽の陳述をすると、刑事罰の対象になったり、損害賠償請求を受けるおそれがあるため、誠実かつ正確な記載が求められます。
不明な場合は、「不明」と正直に書き、無理に断定的な表現をしないほうが賢明です。

また、2社間ファクタリングの場合、こちら(第三債務者)には基本的に債権譲渡の通知が来ていないため、「取引先がファクタリングしていること自体知らなかった」というケースが大半です。
この場合、原則として裁判所の差押命令に従って対応すれば問題ありません。

ここでさらに踏み込んだ問題が生じることもあります。
例えば、差押えをしてきた債権者とファクタリング会社の間で、債権の優先権争いが起きることがあるのです。
もしファクタリング会社が先に債権譲渡通知または債権譲渡登記をしていれば、ファクタリング会社が優先しますが、差押えのほうが先であれば、差押債権者が優先します。
しかし、第三債務者である自社は、このような優先権争いには通常巻き込まれません。
「誰に支払えばよいか分からない」場合は、裁判所に対して供託することで自社の責任を免れることができます(民事執行法第159条)。

供託とは、支払先に争いがある場合に、裁判所指定の供託所に金銭を預ける手続きです。
これにより、どちらが正しいかを争っている当事者同士に問題を委ね、自社は支払義務を免れます。
裁判所または弁護士に相談しながら進めるのが安全でしょう。

さらに、差押えによって支払停止となった取引先との関係についても考慮する必要があります。
差押えを理由に取引関係を打ち切るかどうかは慎重に判断すべきです。
一時的な資金繰り悪化であれば、今後も取引を継続できる可能性はありますが、慢性的な支払遅延や差押えが頻発している場合は、早期に与信見直しを図るべきです。
最悪の場合、取引先の破産や民事再生に巻き込まれるリスクもあるため、事前にリスクマネジメント体制を整えておくことが重要です。

【まとめ】

取引先が2社間ファクタリングを利用し、第三債務者として差押命令を受けた場合の対応は次のとおりです。

取引先への支払いを停止する。

差押命令をよく読み、指示に従う。

第三債務者陳述書を期限内に正確に提出する。

支払先が不明な場合は供託を検討する。

今後の取引関係について慎重に見直す。

このようなケースに直面したとき、冷静に対応すれば、過大なリスクを背負わずに済みます。
一方で、放置したり、軽率な対応をすると、二重払いリスクや裁判リスクを招くことになるため、初動が肝心です。

また、これを機に取引先管理や与信管理体制を強化していくことも、企業防衛のうえでは非常に重要なポイントとなるでしょう。