ファクタリングの第三債務者になり譲り受け渡しの間で契約が履行されなかった場合の対応方法

2社間ファクタリングにおける「第三債務者」は、売掛金の支払義務を負っている取引先、すなわち買主の立場にあたります。譲渡通知を受け取った後は、債権の譲渡先であるファクタリング会社に対して直接支払いを行うことになりますが、時にこのプロセスで不明確な部分が生じます。そのひとつが、「債権譲渡はされたが、元の契約が完全には履行されていない」場合に、第三債務者はどのように対応すべきか、という点です。

まず明確にしておきたいのは、債務の履行期前に支払いがなされていない状態は、債務不履行ではないという点です。債権譲渡が行われたとしても、支払期日前である限り、第三債務者にはまだ履行義務は発生していません。これは民法の基本原則です。したがって、支払期日前の段階で債権が譲渡されていたとしても、取引内容が未了であれば「債権が存在しない」または「未確定である」として支払いを一時保留することは、実務上正当とされます。

問題が発生するのは、譲渡通知を受け取った後に、納品やサービス提供などの契約履行が第三債務者の満足のいく形で完了していないと判断された場合です。このとき、第三債務者は支払先の変更(=譲渡通知)と、自身の契約履行確認(=納品完了など)との間で対応に迷うことになります。

こうした場面での対応としては、以下のような段取りが望ましいといえます。

① 債権の実在性を確認する

債権がファクタリング会社に譲渡されていても、その債権が実際に発生しているかどうかは別問題です。たとえば、契約通りに納品が完了しておらず、検収が終わっていない、あるいは成果物に重大な瑕疵がある場合、債権自体が「未発生」あるいは「発生したとしても支払拒絶できる状態」にあると主張できます。

そのような場合、第三債務者としては、単に「債権譲渡通知が来たから支払う」のではなく、元の契約の履行状況を社内的に確認したうえで、ファクタリング会社に対して以下のような対応をとることが現実的です。

  • 契約履行が未了であるため、支払義務がまだ確定していない
  • 完了検収が済んでいないので、支払時期の延期または拒否の正当性がある
  • 支払いを行うかどうかは契約の進行状況による、という旨を文書で通知する

② 相殺や抗弁があるかを検討する

民法上、第三債務者は譲渡人に対して持っていた相殺の抗弁権を、譲渡後も行使することができます(民法469条)。たとえば、元の取引で発生していた損害賠償請求や未返却金などがある場合、それを譲渡された債権と相殺することで、支払義務を軽減あるいは帳消しにすることも可能です。

重要なのは、この相殺権は譲渡通知前に発生していた債権・債務に限るという点です。したがって、譲渡通知後に新たに発生した抗弁理由は、相殺に用いることができません。このあたりのタイミングと内容を正確に把握しておくことが重要です。

③ 支払義務を曖昧なまま履行しない

債権譲渡が行われていても、債権自体が成立していないと第三債務者が判断するのであれば、ファクタリング会社に対して曖昧な形で支払ってはならないこともポイントです。一度支払ってしまえば、債務は消滅し、後から譲渡人に損害を請求することは難しくなります。

そのため、納品の未了やサービスの瑕疵などがある場合には、支払いをいったん差し止め、書面などで事情を明確に説明する必要があります。ファクタリング会社も、債権の実在性や争いの有無については慎重に扱っているため、事情を正しく説明すれば即座に法的請求をしてくることは多くありません。

④ 交渉が困難な場合は供託を検討

最終的に、譲渡人と譲受人(ファクタリング会社)の間の事情が第三債務者には判断できないほど複雑な場合、債権の存否が争われていることを理由に供託するという手段も存在します。供託金を法務局に納めることで、第三債務者としての債務は一時的に免れ、責任を明確化できます。

もっとも、これはやや手続きが煩雑なため、実務上は稀です。しかし、納品済みかどうかの判断が社内で割れる、相手方と連絡が取れないなど、不安定な状況が続く場合には、選択肢の一つとして有効です。


まとめ

第三債務者が債権譲渡を受けたからといって、常に即座に譲受人へ支払いを行う必要があるわけではありません。支払期日、債権の実在性、相殺可能な債権の有無などを冷静に整理し、正当な対応を取ることが大切です。

2社間ファクタリングは、譲渡人と譲受人の間に第三債務者が割って入る構造となるため、時にトラブルが生じますが、法律上の立場を正しく理解し、必要な交渉や対応を行えば、過剰に恐れる必要はありません。譲渡通知を受け取った際には、そのまま支払う前に、一度契約履行状況と自社の債務内容を丁寧に確認することが、第三債務者としての賢明な対応といえるでしょう。