ファクタリングと偽装ファクタリング、違法ファクタリング

資金調達の手段として注目を集めている「ファクタリング」は、本来、売掛債権を譲渡して資金化する合法的な金融取引です。とくに銀行融資が受けにくい中小企業にとっては、担保不要・審査が早いといった特性から、経営を支える有力な資金繰り手段といえます。

しかし近年、このファクタリングの仕組みを悪用した「偽装ファクタリング」や、法的に問題のある「違法ファクタリング」が横行しており、国も警戒を強めています。実際、消費者庁や金融庁が注意喚起を行うケースも増え、訴訟や刑事事件に発展する例も少なくありません。

ここでは、ファクタリングの正しい仕組みと、違法・偽装の境界線を明確にしながら、どのような点に注意すべきかを整理していきます。
ファクタリングとは何か

ファクタリングとは、企業が保有する「売掛債権」を、第三者であるファクタリング会社に売却し、代金を前倒しで受け取る取引です。つまり、将来受け取る予定の代金を現金化することで、資金繰りを安定させる手段といえます。

ファクタリングには大きく2種類あり、

3社間ファクタリング:売掛先の承諾と通知が必要

2社間ファクタリング:売掛先への通知なく実行される

があります。2社間は手軽な反面、リスクも高く、トラブルになりやすい領域とされています。
偽装ファクタリングとは

偽装ファクタリングとは、「売掛債権の売買」という形式をとっていながら、実態は単なる貸付であるものを指します。つまり、「貸金業」に該当する取引を、ファクタリングという形でごまかしているのです。

ファクタリングが債権譲渡である以上、理論上、売掛先からの支払がなければファクタリング会社が損失を被るのが自然です。ところが、偽装ファクタリングでは以下のような実態が見られます。

売掛債権が存在していない(架空債権)

支払不能でも返済を強制される

手数料が極端に高く、実質的に利息と同じ構造

損失はすべて利用者が負担する契約になっている

これらは、法律上「債権譲渡ではなく貸金取引」と判断される余地が大きく、貸金業法に違反する可能性があります。貸金業登録のない業者がこのような取引を行うと「無登録貸金業」として違法になります。
違法ファクタリングとは

違法ファクタリングとは、先述の偽装ファクタリングを含め、法令違反を含む形で提供されるファクタリング取引全般を指します。

具体的には以下のようなパターンがあります。

実態は貸金業なのに、貸金業登録をせず営業している(無登録貸金)

売掛債権が存在しないのに売却したと偽る(詐欺的構造)

回収不能の責任を利用者に押し付け、強引に支払いを迫る

暴力的な取り立てや脅迫まがいの行為を行う

法外な手数料(年利換算100%超など)を要求する

違法ファクタリングを提供する事業者は、契約書上こそ「売買契約」として体裁を整えていますが、内容は典型的なヤミ金と変わらない場合が多く、利用者にとって深刻な被害が生じます。

また、売掛先に虚偽の通知を出したり、虚構の取引を作るよう指示してくる事業者もおり、利用者自身も詐欺などの共犯として刑事責任を問われるリスクすらあります。
正規のファクタリングとの見分け方

では、どうすれば正規のファクタリングと偽装・違法の取引を見分けることができるのでしょうか。以下のようなポイントに注目することが大切です。

売掛債権の存在確認を厳格に求めてくるか

回収不能時のリスクを誰が負担する契約か

貸金業登録があるか(貸金業として行う場合)

手数料率が極端に高くないか

契約書の内容が適切か(売買契約と返済義務が矛盾していないか)

売掛先への通知の有無を明確に説明しているか

正規のファクタリング会社は、契約前に売掛債権の証憑(請求書、納品書、契約書、入金通帳など)を詳細に確認し、架空債権や回収不能債権のリスクを慎重に見極めます。

また、回収不能時のリスクを「ノンリコース(償還請求権なし)」として設定するのが本来のファクタリングであり、売掛先が支払わなかったとしても、利用者に支払義務が及ばないのが原則です。これに対し、「必ず返金してください」といった契約になっていれば、実質的には貸付です。
偽装・違法ファクタリングに陥る背景

こうした違法業者が蔓延する背景には、企業側の資金繰りの逼迫、そして「銀行に頼れない」「担保がない」「早く資金が欲しい」といった切実な事情があります。

通常、銀行融資は審査に時間がかかり、書類も多く求められます。保証人や担保も必要です。そうした中、即日資金化をうたうファクタリングに飛びついてしまい、内容を確認しないまま契約してしまうケースも見られます。

また、「ファクタリングは貸金じゃないから大丈夫」と勧誘された場合でも、その実態をきちんと確認せずに契約してしまうと、後になって法外な請求や法的トラブルに巻き込まれかねません。
まとめ:ファクタリングを安全に活用するために

ファクタリングは、本来きわめて有用な資金調達手段です。とくに売掛債権を有効活用することで、資産を眠らせずに経営の安定化につなげることができます。

しかし、その利便性の裏側で、制度を悪用した「偽装」「違法」の取引が多く潜んでいるのも現実です。とくに2社間ファクタリングでは売掛先への通知がないため、透明性が低く、法的リスクも増します。

ファクタリングを安全に使うためには、

売掛債権の実在と信用性を正確に把握する

ノンリコース契約であるかを確認する

契約書の記載内容と実態が一致しているかを精査する

不審な手数料、強引な勧誘、過剰な返済義務には応じない

金融庁の登録情報や評判、実績を確認する

といった基本的な注意を怠らないことが重要です。

一時的な資金不足を補うために、長期的な法的・経済的リスクを背負ってしまっては本末転倒です。ファクタリングは便利な手段であるからこそ、その仕組みとリスクを正しく理解し、正規の事業者と適切に取引することが、経営者としての責任でもあります。