長野県 食品加工業 創業16年
野菜を漬物に加工する工房を営んでいます。夜明け前に桶を洗い、前日に塩漬けしておいた大根や胡瓜の具合を確かめるところから一日が始まります。香りや水分を確かめながら軽く混ぜると、熟成の進み具合が手のひらに伝わり、仕上がりの輪郭が見えてきます。ここまでは昔と変わらない仕事ですが、仕入れ環境は随分と変わりました。天候不順の影響で原料野菜の価格が高止まりし、燃料費も右肩上がりです。冷蔵庫とボイラーを動かす灯油は入荷のたびに値札が書き換えられ、塩と酢のコストも少しずつ重くなっています。
製品は主に量販店と業務用卸へ出荷しています。納品書を送ってから入金があるまでしばらく間があき、そのあいだにも農家への支払いと光熱費の口座振替が続きます。資金が細ると製造ラインを止めるわけにもいかず、工房を開けていても心許ない気持ちになります。
そんな折に知ったのがファクタリングでした。売掛金の一部を早めに現金化できる仕組みと聞き、最初は警戒しながらも試してみました。
取引先へ通知せずに済む二社間の契約を選び、請求書と納品実績をオンラインで送るだけで資金が振り込まれます。手数料はかかりますが、原料の仕入れや燃料の前払いが滞らなくなり、製造計画がぶれにくくなりました。特に寒い時期は加熱殺菌の工程が増えて燃料を多く使うため、運転資金の厚みが心の余裕になります。ただ、便利さの裏で利益が削られていく現実は否めません。毎月の利用額を一覧にして、使う必要がない週には申し込みを控えるようにしています。
工房でも見直しを進めています。野菜の下処理で出る端材を乾燥させ、食品残渣を減らす取り組みを始めました。乾燥機の熱源をガスから電気へ切り替えたことで燃料使用量が下がり、乾燥チップは肥料として地元農家に引き取られます。取引が循環すると仕入れ単価の交渉もしやすくなり、ファクタリングに頼る頻度を少しずつ抑えられました。さらに、直販のネットショップを立ち上げ、漬け上がったばかりの商品を予約制で発送する試みも続けています。代金はクレジット決済ですぐに入るため、原料費の一部を前倒しで賄えるようになりました。
それでも原料価格の波は読みにくく、突然の高騰が来ればまた資金が詰まります。ファクタリングはあくまで安全弁として残し、いざというときだけ使う姿勢を守っています。帳簿を開き、手数料と光熱費を並べて眺めるたびに、資金を先回りさせる怖さとありがたさが同時に胸に浮かびます。数字に追われているようでも、塩の入り方や酢の立ち上がりに集中できる時間がある限り、漬物づくりを続けたいと思います。