1.資金調達枠の拡大
単一のファクタリング業者では審査や与信の都合により、希望額すべてを現金化できないこともあります。特定の取引先との継続的な債権がある場合でも、取引先の信用格付けや業種のリスク評価によって、業者が取り扱いを制限するケースがあるためです。
こうした際、複数のファクタリング業者に異なる債権を分散して売却すれば、それぞれの審査基準に沿って調達枠を最大化することが可能になります。たとえば、建設業に特化した業者と、医療債権を扱う業者を使い分けることで、それぞれの得意分野に応じた高額の資金調達が実現しやすくなります。
2.手数料や条件の比較によるコスト最適化
業者ごとに手数料の設定や買取条件は異なります。債権額に対する手数料率、入金スピード、担保や保証人の要否など、実務上の差は非常に大きいため、複数業者を利用することで相対的に好条件のサービスを選別しやすくなります。
特に継続的にファクタリングを利用する企業にとっては、複数業者の競争が自然と条件改善につながることもあり、ある種の価格交渉の余地を持ちやすくなるという効果も見込めます。
3.特定業者への依存リスクの回避
1社のみを頼りにしていた場合、その業者の審査基準が厳格化されたり、サービスを停止されたりすると、資金調達に大きな支障が生じます。特に、最近ではファクタリング業者の新規参入と撤退が激しく、突然のサービス終了や条件変更のリスクも無視できません。
複数業者を同時に利用していれば、ある業者で利用できなくなっても、他の業者で代替調達が可能な体制を維持できます。これにより、資金繰りが突発的に途切れる事態を回避できるのです。
4.業者ごとの専門性や対応スピードを活かせる
一部の業者は特定業界への理解が深く、審査や入金対応が非常にスムーズです。たとえば、介護報酬債権や建設工事代金など、業界固有の請求書形式や締め支払のルールを理解している業者とそうでない業者とでは、手続きの煩雑さやトラブルの発生率に大きな差が生まれます。
併用することで、「この債権はB社の方が得意だ」「入金スピード重視ならC社」というように、債権の特性や資金ニーズの緊急度に応じて最適な業者を選べるようになります。
複数のファクタリング業者を同時利用するデメリット・リスク
1.債権の二重譲渡による法的トラブル
最も深刻なリスクは、誤って同一の売掛債権を複数業者に譲渡してしまう「二重譲渡」です。これは重大な契約違反であり、刑事・民事の責任が問われる可能性もあります。
ファクタリング契約には必ず「譲渡債権の独占性」が盛り込まれており、他の業者との重複を禁止しています。売却する債権の管理が煩雑になることで、うっかり重複してしまうことがないよう、社内で厳密な債権管理体制を整える必要があります。
2.信用情報や資金繰りの悪化が表面化しやすくなる
複数業者に同時に債権を売却しているということは、それだけ資金繰りが逼迫しているという証拠にもなります。仮に取引先や金融機関に知られた場合、「資金繰りに相当苦しんでいるのではないか」と見なされ、信用格付けの低下や取引停止の要因になりかねません。
また、ファクタリングはあくまで「一時的な資金確保手段」であるべきで、これを常態化・拡大化していくと、資金が回っても利益が出ない構造になってしまう危険もあります。
3.事務負担・コスト増加
複数業者と契約・運用するということは、それぞれとの契約管理、請求書・納品書の提出、支払いスケジュールの管理が必要になるということです。社内の経理・管理部門にかかる業務負担は増大し、ヒューマンエラーのリスクも高まります。
さらに、各業者ごとに異なる手数料や振込スケジュールを加味したキャッシュフロー管理が求められるため、実際には調達額が増えても、効率は低下しているケースも多く見られます。
4.業者間の情報共有による契約トラブル
一部のファクタリング業者では、信用リスク管理の一環として他社との併用状況を確認することがあります。過去に、ある業者での利用実績や延滞歴が他社に知られ、それを理由に審査落ちや契約破棄となった事例も存在します。
特に、申告に虚偽があると判断された場合、契約そのものが即時解除される恐れがあるため、「複数業者の利用がバレないようにする」といった方針はかえって危険です。最初から正直に開示し、透明性の高い運用を行うことが重要です。
複数業者利用を検討する際のポイント
ファクタリング業者の併用を検討する際は、以下の点を重視して意思決定を行う必要があります。
- 売却対象の債権は完全に分離すること
→ 債権の重複や混同を避けるため、取引先ごとに利用業者を明確に分ける。 - 業者の得意領域・業種を見極めること
→ 医療、建設、介護など、業者ごとに強みのある業界を把握する。 - 債権管理とキャッシュフロー管理を一元化すること
→ 専用の管理ソフトや外部の顧問(会計士・行政書士等)を活用するのも有効。 - 短期的な運転資金対策で終わらせず、抜本的な収益改善策を並行して行うこと
→ 利益構造の見直しや固定費の削減が、最終的な資金繰りの安定につながる。
おわりに
ファクタリング業者を複数同時に利用することは、適切に運用できれば非常に有効な資金調達手段となります。ただし、管理の煩雑化や法的リスクも孕んでおり、「とりあえずお金が欲しい」という短絡的な動機で進めると、かえって経営を不安定にする結果を招くことになります。
重要なのは、あくまで本業の収益改善とキャッシュフローの正常化を主眼に置いたうえで、ファクタリングを「補助的な資金戦略の一部」として位置づけることです。信頼できる業者選びと、透明性の高い運用管理。これらを徹底してはじめて、複数業者利用のメリットを真に活かすことができると言えるでしょう。