架空債権をファクタリングして訴訟を起こされた場合の対処法

ファクタリングは、保有する売掛債権を現金化できる資金調達手段として、個人事業主や中小企業に広く利用されています。しかし、この制度を悪用して「実在しない債権=架空債権」を持ち込んだ場合、非常に重大な問題を引き起こします。ファクタリング会社に損害を与えるばかりか、刑事責任を問われる可能性もあるからです。

本稿では、もしも過去に架空債権をファクタリングし、その事実が露見して訴訟を起こされた場合に、どのように対応すべきかを法的・実務的な視点から解説します。
1.「架空債権」とは何か

まず「架空債権」とは、実際には存在しない売掛債権、すなわち取引の実体がないにもかかわらず、あたかも存在するかのように見せかけて作られた請求権のことを指します。

例えば、以下のようなケースが該当します。

過去に取引があった企業との取引履歴を流用して、実在しない請求書を作成した

架空の会社名義で架空の発注書や納品書を偽造した

実在する取引先の社印や署名を勝手に使用した

このような債権をファクタリング会社に売却すれば、法的には詐欺罪(刑法246条)の構成要件を満たします。被害金額が高額であれば、執行猶予なしの実刑判決もあり得ます。
2.訴訟が提起される主なルート

架空債権によるファクタリングが発覚するきっかけは、主に以下のいずれかです。

債務者(取引先)から「そんな債権は存在しない」とファクタリング会社に連絡が入る

支払期日になっても入金がなく、ファクタリング会社が債務者に直接問い合わせた

債務者が支払い拒否を理由に、裁判所に債権不存在確認訴訟を提起した

このような場合、ファクタリング会社は「債権売却者(あなた)」に対して損害賠償請求訴訟や詐欺に基づく不当利得返還請求訴訟を提起する可能性があります。加えて、刑事告訴されることも少なくありません。
3.訴訟を起こされた場合の初動対応

訴訟が起きた際、最も重要なのはすぐに弁護士に相談することです。訴状が届いた場合、裁判所からの呼出状や答弁書提出期限が記載されています。これを無視すれば、被告欠席のまま敗訴が確定してしまいます。

対応すべきポイントは以下の通りです。

債権が実在することを証明できるか?
 → 発注書、納品書、請求書、メールのやり取り、振込履歴などを確認

虚偽であった場合、どう認めるか?
 → 故意性を否定するか、善意であったことを主張するか、争わず早期和解を目指すかの方針決定

被害額の一部でも返済可能か?
 → 和解交渉や示談の材料として、返済計画の準備を

なお、刑事と民事は並行して進む可能性があります。民事での責任を認めて示談することが、刑事責任の軽減につながることもあります。
4.具体的な事例:飲食業のケース

ある飲食業経営者Aさんは、かつて仕入れをしていた業者との過去の取引履歴をもとに、「今月も30万円の納品があった」として偽の請求書を作成し、ファクタリング会社に債権を売却しました。

ファクタリング会社はその債権を買い取って現金化しましたが、支払期日に債務者が一切支払いを行わず、確認の電話を入れたところ「そんな納品はない」と返答。調査の結果、納品書や発注書がすべて偽造されていたことが発覚し、即座にAさんは詐欺罪で刑事告訴され、民事訴訟も同時に進行しました。

Aさんは弁護士を通じて、架空請求であることを認め、全額返済の意志を示しながら民事では分割返済を提案。被害額の一部をすぐに返金し、刑事では執行猶予付きの判決となりました。被害額が少額で初犯だったこと、真摯な反省態度が評価されたとされています。
5.示談・和解での落としどころ

もし事実として「架空債権」であることが明白であれば、訴訟を長引かせることは得策ではありません。ファクタリング会社側も、回収可能性があれば民事での解決を望むケースがあります。以下のような提案が現実的です。

被害額の一部をすぐに返済し、残りは分割返済

将来的な差押え・強制執行を回避するための支払合意書の締結

刑事告訴を避けるための示談交渉

ただし、示談が成立しても、すでに刑事告訴されている場合は取り下げが効かないこともあります。特にファクタリング会社が反社排除や内部規定で刑事対応を原則としている場合、民事示談で済むとは限りません。
6.将来への影響と再起の可能性

一度でも架空債権によるファクタリング詐欺を行った事実があれば、事業者としての信用は大きく損なわれます。融資やリース契約、他の取引先との関係にも支障をきたし、最悪の場合、事業継続そのものが困難になります。

また、個人名で登記された事業であれば、ブラックリストや信用情報に記録が残り、5〜10年は新たな資金調達も難しくなるでしょう。

それでも再起を目指す場合は、誠実な債務弁済と法的整理を同時に進めることが必要です。破産や個人再生といった手続きを経て、一定期間後に信用を回復するという選択肢も現実的にはあります。
まとめ

架空債権を用いたファクタリングは、極めて重大な法的リスクを伴う行為です。もし訴訟を起こされた場合、まずは事実関係を正確に把握し、弁護士と相談のうえで誠実な対応を取ることが最も重要です。損害賠償の負担だけでなく、刑事罰の可能性にも備える必要があります。

一時的な資金難により、軽い気持ちで不正に手を出してしまう事業者もいますが、信用と自由を失うリスクはあまりにも大きいということを、決して忘れてはなりません。