資金繰りに困った中小企業や個人事業主にとって、ファクタリングは一つの救いとなり得ます。売掛金を早期に現金化できるため、融資と違って借金ではないという点も魅力です。しかし近年、ファクタリングを巡るトラブルが少しずつ表面化しています。中でも目立つのが、「取り立て行為」に関するものです。ファクタリング業者の対応が強引だったり、執拗だったり、まるで闇金のような扱いを受けたという声もあります。
そもそも、ファクタリングで「取り立て」が発生するというのはどういうことなのでしょうか。そして、それは違法になる可能性があるのでしょうか。今回は、このテーマについて詳しく掘り下げてみます。
ファクタリングにおける「取り立て」とは?
ファクタリングは、企業(利用者)が持っている売掛金を、ファクタリング業者が買い取るサービスです。取引は基本的に「売買」であり、貸金ではないというのが建前です。よって、厳密には「債権回収」はファクタリング業者の正当な権利です。ただし問題となるのは、回収方法です。
ファクタリングには「二者間取引」と「三者間取引」があります。前者は売掛先に知らせずに売掛金を譲渡するため、売掛先への請求や取り立ては発生せず、万が一売掛先が支払わなかった場合は、利用者が代わりに支払う仕組み(償還請求型)になっていることもあります。このとき、ファクタリング業者が利用者に対して支払いを強く迫る場面が「取り立て」と呼ばれるケースです。
たとえば「今すぐ支払え」「親族に電話をかけるぞ」「ブラックリストに載せる」といった言動があれば、違法性が疑われることになります。
貸金業ではないが、取り立てに関する制限はある
ファクタリング業者は、貸金業登録が不要とされてきました。なぜなら、形式上「お金を貸している」のではなく「債権を買っている」からです。しかし、実態が貸金業と変わらない、もしくはそれ以上に悪質な手口が使われている場合、話は変わってきます。
取り立て行為については、貸金業法21条に具体的な禁止行為が定められています。深夜や早朝の督促、勤務先や親族への執拗な連絡、名誉を毀損するような言動などがこれに該当します。
ファクタリング業者が貸金業者ではない以上、この法律が直接適用されるとは限りませんが、民法上の不法行為や、刑法の強要罪・脅迫罪に該当する可能性があります。また、消費者契約法や特定商取引法の適用が検討されることもあります。
つまり、形式がどうあれ、常識を逸した取り立ては違法になり得るということです。
「偽装ファクタリング」のリスク
特に注意すべきなのが、ファクタリングを装った「実質的な貸付」のケースです。形式上は債権売買契約として書類を整えていても、内容を見ると「資金を渡して後から分割返済させる」「返済できないとペナルティが課される」といった内容になっていることがあります。
これは、名ばかりのファクタリングであり、実態は違法な貸付、すなわち無登録貸金業に該当します。この場合、業者は貸金業法違反で処罰される可能性があり、取り立て行為も違法とされるでしょう。
利用者側も、「これは債権譲渡契約ではなく、ただの借金ではないか?」と冷静に判断する目を持つことが重要です。
取り立て被害にあったときの対応策
もし、ファクタリング業者の取り立てが過度に思えた場合、以下のような対応が考えられます。
内容証明を送る
不当な取り立てをやめるよう求める書面を、弁護士名義で送ることで抑止効果が期待できます。
弁護士に相談する
取引の実態を分析してもらい、必要であれば損害賠償請求や刑事告訴の検討も可能です。
警察や消費生活センターに通報する
特に脅迫や暴力的な言動があった場合は、警察の介入を仰ぐべきです。
法務局や金融庁に相談する
ファクタリング業者が実質的に貸金業を営んでいると判断される場合は、行政処分が下ることもあります。
まとめ:契約前に「相手」をよく見ることが何より大切
ファクタリングは便利な資金調達手段ですが、取引相手を誤ると、違法な取り立てや過剰請求といった二次被害に繋がる恐れがあります。契約前には、業者の登記情報、実績、契約書の内容をよく確認し、少しでも不自然な点があれば第三者に相談することをおすすめします。
繰り返しになりますが、「借金じゃないから大丈夫」という思い込みは危険です。法的には売買契約でも、実質的な貸付とみなされるケースがあり、その場合には取り立て行為も一線を越えることになります。
「資金繰りが苦しいときほど冷静に」――これは、ファクタリングに限らず、経営者として常に意識しておきたい心得かもしれません。