ファクタリングという資金調達手段の中でも、比較的柔軟に活用されているのが「2社間ファクタリング」です。これは、資金を必要とする企業(売掛債権者)とファクタリング会社(債権譲受人)の間だけで契約を交わす方式であり、売掛先企業(債務者)には基本的に知らせない、つまり「通知しない」形で進行します。
売掛債権を第三者に譲渡する以上、本来であれば債務者への通知または承諾が必要ではないかという疑問を持つ方も多いでしょう。特に法律や契約実務に詳しくない中小事業者からすれば、「取引先に知られないまま、そんなことが本当にできるのか?」と感じるのも無理はありません。
本コラムでは、この「2社間ファクタリングにおける売掛先への不通知」がなぜ可能なのか、法律上・実務上の観点からわかりやすく解説していきます。
■債権譲渡に関する基本ルール
まず前提として、債権の譲渡そのものは民法で認められており、契約の相手方に黙って第三者に債権を譲渡することも可能です。ただし、債務者に対して効力を及ぼすためには、「対抗要件の具備」が必要です。
この対抗要件には以下の2つの方法があります。
債務者への通知(内容証明郵便など、確定日付付きの方法)
債務者の承諾(確定日付のある承諾書など)
つまり、譲渡したこと自体は自由ですが、債務者に対抗するためには通知または承諾が必要なのです。逆にいえば、「対抗しない」ことを前提にすれば、通知や承諾を得なくても債権の譲渡は可能だということになります。
これが、2社間ファクタリングで「売掛先企業に通知しない」ことを可能にしている根拠です。
■なぜ通知しなくても取引が成立するのか
ファクタリング会社の視点に立ってみましょう。通常の3社間ファクタリングであれば、債権譲渡の通知と承諾を経て、売掛金の入金は債務者からファクタリング会社に直接なされます。これにより回収リスクが軽減され、ファクタリング会社としても安心して資金を提供できる仕組みです。
一方、2社間ファクタリングでは、通知がなされないため、売掛先からの入金は引き続き債権者(資金調達企業)の口座に入ります。その後、ファクタリング会社に債権者が支払う形になります。つまり、ファクタリング会社は「売掛金が入金されること」を信頼して先に資金を提供することになります。
このため、2社間ファクタリングでは、以下のような実務的なリスク管理が行われます。
売掛先との継続的な取引履歴の確認
過去の入金実績(通帳、入金明細)の確認
代表者の信用調査、支払能力の調査
万一のための連帯保証や公正証書の作成
債権譲渡登記の実施による第三者対抗要件の備え
特に「債権譲渡登記」は、債務者には通知されないものの、第三者に対しては債権の譲渡を主張できる効力を持つため、後日、売掛債権に二重譲渡などの問題が起きた際には重要な証拠となります。
つまり、通知しない分だけ、ファクタリング会社側は入念なリスク管理体制を構築し、「売掛先に知らせなくても、確実に回収できる」ような仕組みを整えたうえで取引を行っているのです。
■なぜ「通知しない形」を望むのか
通知しない方式が実務上成立する理由は上述の通りですが、ではなぜ事業者は「通知しない」方式を望むのでしょうか。これには明確な事情があります。
多くの中小事業者は、主要な取引先との関係に非常に敏感です。資金繰りが厳しい、債権を売って資金化している、といった事実が伝わることで「この会社は不安定だ」「取引を見直すべきか」といった印象を与えかねません。
特に、下請け業者や継続契約のある業者にとっては、取引先の信用を保つことが生命線です。いかに資金調達が必要であっても、「通知されるくらいなら、使わない」と考える経営者は少なくありません。
その結果、「売掛先に通知されずに使える」2社間ファクタリングの需要が高まっているというわけです。通知がなければ、取引先に知られるリスクもないため、資金調達後も平常通りの取引が継続できます。
■デメリットと注意点も存在する
ただし、通知を行わない2社間ファクタリングには、当然リスクも伴います。
第一に、回収リスクは高まります。債務者が売掛金をファクタリング対象の債権と認識していないため、支払遅延や不払いが起きた場合、ファクタリング会社の保護は難しくなります。
第二に、債権の二重譲渡や、譲渡禁止特約に違反する可能性もあるため、契約書類の確認は慎重を要します。
第三に、資金提供を受けた企業は、売掛金を受け取った時点でそれをファクタリング会社へ遅延なく送金しなければなりませんが、資金繰りが厳しい状況では、それを守れずトラブルになるケースもあります。
そのため、2社間ファクタリングは利用者側にも一定の信頼性・実行力が求められます。契約通りに資金の流れを保つことができるかが、利用を継続できるかどうかの分かれ道になります。
■まとめ:2社間ファクタリングの不通知は「リスクと信頼の上に成り立つ」
売掛先に通知しない2社間ファクタリングは、法律的には「対抗要件を放棄する」ことで成立しており、実務上はファクタリング会社が厳格な審査と管理を行うことでリスクをカバーしています。
通知を避けたいという中小企業のニーズに応えた柔軟な資金調達の形ですが、その分、利用者にも一定の誠実さと管理能力が求められます。
通知されない=バレないから楽、という単純な話ではなく、双方の信頼関係と契約履行があってこそ成り立つ制度です。そのことを理解したうえで、自社の資金繰りに適した手段として2社間ファクタリングを活用することが、健全な経営につながるのではないでしょうか。